京都家庭裁判所 平成4年(少)98号 決定 1992年2月13日
少年 U・K子(昭和50.7.3生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、平成3年12月26日ころから平成4年1月17日までの間、友達に会うとの理由で帰住先である京都府婦人相談所から出奔したまま同所に帰らず、大阪市内の盛り場を徘徊し、反復して行きずりの男と行動を共にし性関係を持ったものであって、このまま放置されるならば、その性格及び環境に照らして、将来売春防止法違反等の罪を犯すおそれがあるものである。
(適用法令)
ぐ犯事由及びぐ犯性につき 少年法3条1項3号本文、同号ロ、ニ
(処遇の理由)
少年は、幼少時父母が離婚し、主に親類方や養護施設に預けられて成長し、平成元年ころから母親に引き取られて生活するようになったが、母親の養育姿勢が不適切であったこともあって、万引、家出、不純異性交遊等問題行動を繰り返し、平成2年6月ころから同年11月ころまでの間教護院に入院したものの、その後も家出等を繰り返し、暴力団員と交際し、いわゆるファッションマッサージ嬢、ホステス等をし、大麻と思われる薬物を使用し、平成3年12月9日当庁においてぐ犯により観護措置の後保護観察となった。しかし、同月26日には帰住先である婦人相談所から出奔し、上記非行事実欄記載のぐ犯状態にあったものである。
少年は16歳ながらすでに二度にわたり妊娠中絶手術を受けており、家出及び性的逸脱行為は多数回繰り返されて習癖化しているとみられ、性格は衝動性、即行性が目立ち、軽率であり、性意識や男性観に歪みがあるのであって、現状のままでは、今後とも性的被害を受ける可能性が高く、さらに、本件において出奔中、宿所の確保と小遣銭欲しさに声をかけてきた行きずりの男と積極的に行動を共にし、さしたる抵抗感もなく性関係を持つという行為を繰り返したことからして、少年のぐ犯状態は今後売春の勧誘等の犯罪行為に発展するおそれもあるところであり、少年に対しては、系統立った教育によりその性向を改善すべき必要性が高い。
ところで、処遇の選択に関し、附添人は、少年が平成3年4月ころ住込就労したことのある中華料理店が少年の受入れを申し出ている等として、再度の保護観察又は試験観察が相当であると主張する。しかし、当時も少年は、3か月弱で、正当な理由なくその住込就労先から無断退去し、盛り場を徘徊して暴力団員と性関係を持つに至ったものであり、また、本件においても、少年は、観護措置の後保護観察に付され、二度目の妊娠中絶手術をしたにもかかわらず、手術の8日後に、さほど大きな理由もなく帰住先から出奔し前記のとおり不良行為を繰り返したものであり、これらの行状からすると、少年において在宅の指導を受け容れるにはその力量が不足しているとみざるを得ない。したがって、少年に対して系統立った教育を行わずにこれ以上在宅の措置を継続しても、再び帰住先から出奔し不良行為を繰り返す可能性が高いとみられるところであり、附添人の主張は相当とは思われない。
加えて、少年の母親は自己中心的な養育姿勢でその保護能力には期待ができない(少年も母親の下に帰住することを強く拒否している。)ところであり、以上の諸点を総合考慮すると、今回は、少年を中等少年院に収容し、性意識等の歪みの改善と基本的生活習慣の確立に向けて矯正教育を行うのが相当である。
なお、少年は今回初めての収容処遇となるが、前記のように家出及び性的逸脱行為については習癖化しているとみられること、性意識等の偏りが大きいこと、過去の成育歴、施設歴等からして性向改善の効果を上げるにはそれなりの期間を要するとみられること、保護環境上の問題も大きく、社会復帰の前に十分に矯正教育を行う必要があるとみられることといった事情があるので、一般短期の処遇勧告は付さないこととする。また、少年の性格及びこれまでの処遇経過に照らし、少年は外的な指示のみでは内省が進展しにくく、少年の内面を整理し、自己確知と自己決定を繰り返す中で内省を進め、自立の力を養う必要が認められるので、「少年に対しては、カウンセリング的な手法を用いた個別的な働きかけにより、性意識等の歪みの是正、母親に対する感情の整理、地道な生活目標の確立、就労意欲の喚起等を図られたい。」との処遇勧告を付することとする。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により主文のとおり決定する。
(裁判官 戸田久)
処遇勧告書<省略>
京都保護観察所長殿
京都家庭裁判所
裁判官 戸田久
少年の環境調整に関する措置について
当裁判所は、平成4年2月13日、貴庁の保護観察に付されていました下記少年を中等少年院に送致する決定をしました。少年については、その環境調整に関する措置が特に必要であると考えますので、少年法24条2項、少年審判規則39条により、下記のとおり要請します。
記
1 少年
氏名 U・K子 昭和50年7月3日生 職業 無職
本籍 広島県加茂郡○○町大字○○××番地
住居 不定(元住居 京都市○○区○○町××番地京都府婦人相談所)
2 環境調整に関する措置の内容
京都保護観察所長は、少年が少年院を出院するに際し、適切な帰住先及び就労先を確保されたい。
3 上記措置の必要性等
少年は平成3年1月ころから今回審判の時点まで、母親の下への帰住を一貫して強く拒否している。少年の成育史をみると、少年が母親と同居したのは、1、2歳のころ、小学校1年生から3年生にかけて及び平成元年11月ころから平成3年1月にかけて(その間の平成2年6月から同年11月までは教護院に入所)であるが、母親の少年に対する養育姿勢は、少年の福祉についての配慮を欠き、自己中心的であるとみられるところで、この点は、中学校の学校照会書への回答(母親の勝手な育て方により少年の生活が乱れているとする。)、家庭裁判所調査官に対する母親の供述(生活が苦しいので少年に妹たちの面倒を見てもらい自分は働きに出たい、それができないなら親子の縁を切ると述べる。)、少年の供述(母親が少年のことをお手伝いさんと思っており、ひどくこき使われると述べる。)からして、明らかである。さらに、少年は、中学3年生のころ、母親と内夫との性交渉に加わることを強要された旨を詳細に供述しており、(内容は、別添の、少年が平成3年1月18日ころから同月23日ころまでに作成し児童福祉司に提出した作文の写し(編略)を参照されたい。)、母親は審判廷においてこれを否定しているものの、同女は他所においてそのような事実があったことを匂わせるような発言もしており、そのような事実が存した可能性は高い。
このように少年の拒否が強いこと、実際に少年が母親に養育された期間が短いこと、母親はその養育姿勢に問題があり、かつ、少年の福祉を害する可能性を否定できないことに鑑みると、少年を母親の下に帰住させるのは相当ではなく(無理に帰住させても再び家出等の問題行動を生ずる可能性が高いとみられる。)、他方、少年には母親以外に身寄りがなく、住込就労を希望しているが現在のところ確定的な引受先は確保されていない。したがって、上記2のとおりの環境調整の必要性が認められる。
なお、母親は、少年の拒否が強ければ無理に少年を引取る気はないとの意向であるので、上記環境調整の障害とはならないものと思われる。
以上の次第であるが、少年が以前住込就労したことのある中華料理店「○○」が調査時に少年の受入れを申し出ていたこと、その他参考となる事情について、別添の決定書謄本、少年調査票の写し(編略)、鑑別結果通知書の写し(編略)を参照されたい。